金利スワップの問題点

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金利スワップに関する判決の検証

クレディ・アグリコル事件——通貨スワップ

(平成24年9月11日 東京地裁判決)

事案
商品:通貨スワップ
販売者:クレディ・アグリコル・セキュリティーズ・アジア・ビー・ヴィ
判決

購入者は解約損害金23億5000万円と1割の弁護士費用の支払いを求めたが、判決は、説明義務違反による賠償義務違反は認めたが、7割の過失相殺があるとして7億6185万円の支払いを命じる。

販売者は、時価価格が、実勢為替レートの変動、ボラティリティ、日米の金利差の影響により変動するものであるとの説明まではしていたが、それらの要素がどのような要因で変動し、それらの変動が本件取引の時価評価額にどのような影響をもたらすかなどについての具体的な説明まで行わず、時価評価シミュレーション(当初の2~3年について、取引量が10万ドルと想定。115円~90円まで、5円刻みが付いていた)を提示していたが、そこには算定根拠や変動の要因等について説明する記載は含まれておらず、これでは、時価価格についての説明としては、はなはだ不十分と言わざるを得ないとして、説明義務違反を認めた。

しかし、購入者は、為替デリバティブ取引の経験があり、通貨取引にかかる時価評価額という概念については認識していた。さらに、はなはだ不十分ながらその変動要素に関する一応の説明を受けていたとして、7割の過失があると判断したものである。

コメント

本件の販売者の説明義務は、他の国内の銀行や証券会社と比較すると、かなり踏み込んで説明しており、シミュレーションまで提示している。それでも、説明義務を認めているのが本判決である。7割という過失相殺ははなはだ疑問であるが、今後参考にされるべき好判例である。


大阪産業大学事件——金利スワップ

(平成24年2月24日 大阪地裁判決)

事案
商品:金利スワップ
購入者:大阪産業大学
販売者:野村証券

野村証券は大阪産業大学に20万豪ドルを、合意した参照為替レートにより換算した円貨を支払う。大学は野村証券に20万豪ドルを、1ドル当たり74円で換算した円貨を支払う。

為替レートが1豪ドル74円以下になると大学の支払額が3倍になるレバレッジが付いている。93円以上の時は、銀行の支払い義務が消滅する消滅条件がある。

1豪ドルが74円より円高だと大学は3倍の損失となる。円安だと利益を得るがレバレッジはなく、93円以上となると利益を受け取る権利は消滅する。野村証券にとっては極めて都合のいい商品である。

大学は円高の中で契約を続行できず解除したが、解約料名目で11億6270万円支払った。この支払った解約金を損害賠償として請求したのが本件である。

判決

野村証券に説明義務違反を認めたが、8割の過失相殺ありとした。その結果、2億5319万円の支払いを命じている。

本件取引は為替変動により大きな損害が生じる可能性があることと、中途解約する場合には多額の解約損害金が発生する可能性があることについて十分に理解できるよう説明すべき義務があったが、交付された書面上には「時価の変動によっては、期中での合意解約に際し、受取り超となることも、支払い超となることもあります」と記載されているのみで、これ以外に説明はなく、これでは、大学は解約料の具体的算定方法あるいは概算額について全く推測もできないとし、説明義務違反を認めた。

ただし、大学は仕組み債というデリバティブを中心に多額の資産運用を行っていたこと、経済学部の教授など慎重に検討する人材を有していたことなどを考慮し、過失相殺は8割であるとした。

コメント

本判決は説明義務違反を認めた点では高く評価できる。しかし、過失相殺を8割としたのは疑問である。仮に、仕組み債を取引していたことから、デリバティブのリスクを知ることが出来たとしても、それはリーマンショック以降の円高になった時のはずである。本件金利スワップの契約は、それ以前の平成20年1月であり、大学としては本件商品購入当時、デリバティブのリスクを認識しえなかったはずである。
控訴審で、この過失相殺が見直されることを期待したい。
なお大学は、本件解約料は不合理な計算に基づき詐取されたものだと主張し、専門家の「解約料はフォワード為替が、金利差が満期まで固定するものとして機械的に決めたもので、無理あるいは不合理な仮定に基づくものである」と指摘する意見書を証拠として提出していたが、この主張は認められなかった。


福岡高裁の平成23年4月27日判決について

この判決では、金利スワップという金融商品を販売した銀行の説明義務違反は重大であり、契約締結に当たっての信義則に違反するものとして、契約自体を無効とした上、説明義務違反は重大で、銀行の不法行為を構成する、と判断している。

この判決は、説明義務違反を認めただけでなく、契約を無効とした点で、注目すべき高裁レベルの判決である。

ポイントとしては、以下の2点が挙げられる。

POINT.1
顧客が予定した金利の変動に伴うリスクヘッジとしての機能を十分に果たせないおそれがあったのに、この点に関する説明が無かったとした点

金利スワップ契約における先スタート型とスポットスタート型の各スワップ金利が理論上なぜ異なるのか、スタート時点での相違による利害等について説明が全く無かったことを指摘し、変動金利の基準金利と固定金利水準に関し、スワップ対象の金利同士について、価値的均衡の観点から妥当な範囲にあることの説明がなされなかったとした。

つまり、金利スワップの目的である、金利同士の価値的均衡について、判断材料が提供されていないということで、極めて重要な指摘である。

さらに、金利スワップ契約の固定金利が、契約締結時に金融界で予想されていた金利水準の上昇に相応しない高金利であったこと、金利同士の水準が、価値的均衡を著しく欠くこと、変動金利リスクヘッジに対する実際上の効果が出ないことを認定している。ただ、この問題点は、このケース特有のものではなく、他の金利スワップ全体にいえるものである。だからこそ、金利スワップは、構造的に問題があるのである。

POINT.2
契約締結の是非に係る顧客の判断を左右する可能性のある事項について、きわめて不十分な説明しかなかったとした点

中途解約時の清算金額についてはきわめて抽象的であって、その具体的算出方法、概算額について全く推測が出来ないとし、この点は、契約締結の是非の判断を左右する可能性のあるものであり、この点での、説明が無かった事は、重大だとしている。
この問題点は、全金融デリバティブに当てはまる、きわめて核心的な指摘である。

さらに、専門的な性質の契約においては、その知識を有する当事者には、契約に付随する義務として、しからざる当事者に対し、個々の相手当事者の事例に見合った当該契約の性質に副った相当な程度の法的説明義務があるとしている。
ここに、専門家の説明責任を、明確にうたっているものである。

また、この契約は、銀行に一方的に利益をもたらすものと認定し、金利スワップが極めて危険性の高い商品であることを、明確に指摘している。

以上のように、この判例の判断過程と判断内容は、きわめて的確であり、今後、金利スワップのケースのみならず、金融デリバティブ全体の指標的な判例となるであろう。

諸外国の状況

デリバティブによる被害は全世界で起きている。複雑なデリバティブ商品でマーケットの無い店頭売買のデリバティブ商品は、損が出て失敗したと思っても売却して損害を最低限に抑える方法が無く、損害が一方的に拡大してしまうため、どこの国でも重大な社会問題となっているのである。
今、ドイツや韓国、イタリア、UKなどの判例情報が手元に届いている。いずれも、購入者に生じた損害に対して賠償を認めたものである。
その判断理由は、日本と同じように、将来生じるべきリスクに対しての具体的で詳細な説明義務説明がなされていないとするものが一般的であるが、さらに、取引開始時の商品の時価を明らかにさせて、それが買うかどうかの判断のための重要な材料となるとして、そこに説明義務を求める判例が目立つ。
今後、日本での訴訟展開でも検討されるべき重大な論点であろう。

スワップ事件

(平成23年3月22日 ドイツ連邦裁判所判決)

事案

CMS Spread Ladder Swapというスワップ商品に対して、銀行に54万1074ユーロの支払いを命じた。

判決

投資家が銀行の有する情報と同レベル知識を得られるような説明をする義務がある。それは、一方の利益が、鏡像のように同額の他方の損失となるので、銀行には原告の助言者として原告の利益を尊重する義務が存在するとする。この点の判決要旨は以下のとおりである。

  • 本件では、購入者が開始時のネガティブな市場価値(negative Marktwert)を知っていたのなら、購入をしなかったはずである。
    契約締結時、元金額(約80000ユーロ)にたいして4%のネガティブな市場価値がある。これは、顧客のリスクが販売者よりも大きく設定されているものであり、大きな損害を与えることになる。銀行はこの点について、購入者に対して助言する義務がある。
  • 変動金利算出式だけでなく、発生し得る全体的な効果、金利を生みだすチャンスとリスクが異なること、すなわち、顧客のリスクは無限だが銀行は変動金利0%のカップリングにより年率3%に固定されており、顧客にネガティブな金利支払い義務が生じているが顧客はこれらを計算できないことを、顧客がかような計算ができない限り説明義務を尽くすべきであるが、それを果たしたとはいえない。

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